研究報告 1-4

榊原 賢二郎 (さかきばら けんじろう)
早稲田大学先端社会科学研究所

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#報告題目

障害スコアの数値と信頼性に関する予備的考察――障害の重度性の測定に向けた試み

#報告キーワード

社会的排除 / 職業威信スコア / 級内相関係数

#報告要旨

障害の社会的定義[UPIAS and DA 1976]以後、一種の社会的排除としての障害観が形成されてきた[榊原 2016]。これを踏まえると、障害の重度性は、その障害が伴う社会的排除の重度性として再定式化できる。本報告では、障害の重度性、とりわけ障害種別ごとの重度性を数量化する「障害スコア」という方法を提示し、予備的な調査から得られた障害スコアの数値を報告する。またこの尺度の信頼性を検討する。
これまで障害の重度性は主に日常生活活動に即して測定されてきたため(例えば[Salen et al. 1994])、異質な障害種別間の比較は難しかった。しかし先述の重度性の再定式化により、多様な障害種別の重度性を、社会的排除という共通の基準で測定できるようになる(排除としての障害観においても障害種別という概念は適用できる[榊原 2016])。
重度性の測定は統計的に行われることになるが、統計的測定の方法は、排除の実際の状況に基づく客観的方法と、排除の程度の主観的評価に基づく主観的方法の二種類に分けられる。両者の結果は必ずしも一致しないが、それぞれに意味がある。本報告で提示する障害スコアは主観的方法に属する。
今回障害スコア測定のために用いた具体的手順は次の通りである。障害者に限定されない全人口から抽出された回答者に対して、各種身体条件を列挙する(今回は31種類)。回答者は以下の設問に対して、「まったく不利にならない」(1)から「非常に不利になる」(6)までの間で選択する。

「以下の表に並んでいるのは、心や体の状態です。この中には、仕事や学校生活、結婚や家事・育児などといった社会生活で不利になるものもあるようです。以下の心や体の状態は、どの程度社会生活に不利になると思いますか。」

1が0点、6が100点になるように変換した上で算出した平均値を障害スコアとする。この方法は職業威信スコア[Treiman 1977]を踏まえており、すぐれて社会学的な方法である。
この方法を用いて質問票調査を実施した。この調査はインターネット上の委託調査であり、無作為抽出ではないが、予備的考察のために行われた。調査実施期間は2017年5月26日から5月30日までである。各回答者は二種類の調査票(A票・B票)のいずれか一方に回答し、本報告で取り上げるA票への有効回答は224件であった。
列挙した各種身体条件の障害スコアは、「目が見えず.耳が聞こえない」(90.8点)から「髪の毛がない」(31.4点)の間に分布した。全般的に機能制限に伴う不利が高めに評価され、外見の異形に伴う不利は低めに評価された。精神疾患関連では、「幻覚や妄想がある」(71.2点)が比較的高めに評価されたが、「気分が沈み何もやる気がしない」(57.0点)は中程度に評価された。
障害スコアの信頼性は、通常の心理尺度と同じように求めることができないが、本報告では行と列を入れ替えたデータを用いて信頼性の算出を試みた。クロンバックのα[Cronbach 1951]は、0.994であった。また障害スコア(平均値)の級内相関係数(ICC)[Fleiss 1986]は、0.987であった。これらの値により、障害スコアが信頼可能な尺度であることが示唆された。
本調査は早稲田大学の倫理審査による承認を受けて実施された。調査は無記名で行われ、個人情報は収集していない。

榊原賢二郎(2016)『社会的包摂と身体――障害者差別禁止法制後の障害定義と異別処遇を巡って』生活書院。
Cronbach, L. J. (1951), “Coefficient Alpha and the Internal Structure of Tests”, Psychometrika, 16: 297-334.
Fleiss, J. L. (1986), The Design and Analysis of Clinical Experiments, New York: Wiley.
Salen, B. A. et al. (1994), “The Disability Rating Index: An Instrument for the Assessment of Disability in Clinical Settings”, Journal of Clinical Epidemiology, 47(12), 1423-1434.
Treiman, D. J. (1977), Occupational Prestige in Comparative Perspective, Academic Press.
UPIAS and DA (=The Union of the Physically Impaired against Segregation and the Disability Alliance) (1976), Fundamental Principles of Disability, London: UPIAS and DA.