研究報告 1-1

阿地知 進 (あぢち すすむ)
金沢大学大学院

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#報告題目

障害者雇用の賃金とその意味

#報告キーワード

割当雇用制度 / ベーシックインカム / ディーセントワーク

#報告要旨

障害者雇用の賃金は、根本的に低く過ぎ、それだけでは生活できない賃金が当然のことのよう行われている。就職が困難である障害者という前提で、最低賃金を下回る賃金が、ハローワークでも紹介され違法ではない。
障害者が、その賃金だけでは生活することが困難な労働環境を当たり前のこととする背景には、障害者が働くことが、権利とは考えられていないことがある。そして、いくつかの制度もそのような考え方を反映し助長している。
就職が困難な障害者のための、支援的制度として、割当雇用制度(義務雇用制度)がある。
割当雇用制度(義務雇用制度)の法的根拠は、「障害者の雇用の促進等に関する法律(昭和三十五年七月二十五日法律第百二十三号)」である。
障害者雇用の推進制度は,世界的には,割当雇用制度から始まる。第一次世界大戦後の傷痍軍人への対策が障害者対象へと拡大して行ったものである。
現在、諸国の制度は、割当雇用制度のみ、割当雇用制度を廃止して差別禁止法のみ、両者の併用と多様であるが、全体では割当雇用から差別禁止法による制度へと動いている。
理念でみると、割当雇用制度は、事業者に、割当数に達するまでは求人状況及びその内容にかかわりなく障害者に合った仕事を作り出す、という課題を課し、差別禁止法は、求人内容に合致する障害者であれば就業保障を課す、という相違は確かにある。しかし障害者に合理的配慮をして就労保障することは同様である。
そして、障害者と言う立場からは、どちらの制度にしても、結局、健常者の恩恵や同情を背景に、障害者雇用促進法に基づく、経営者の不利益を解消することを眼目としているということに他ならない。職能ではなく割当てられた数を雇用することになる割当雇用制度、職能に対しては平等になるような制度であるが、雇用の絶対数で、多くの障害者を雇用することに、やはり、健常者の恩恵や同情を背景に、障害者雇用促進法に基づく、経営者の不利益を解消することを眼目とする差別禁止法である。
そして、ここでの問題は、障害者を多く雇っていることが、経済競争上不利になるという“不公平感”が、当然のこととして制度に反映している点である。ここに、障害者は「デキナイ労働者」と言うことが、暗黙の理解となり、この点が多くのディスアビリティをもたらしている。
日本の障害者雇用施策は、割当雇用制度によって事業主に一定割合の障害者を雇用することを義務づけ、 障害者を雇用できない事業主から納付金を徴収し、 それを財源に障害者雇用を積極的に進める事業主に対し、調整金や助成金を支給するというものである。割当雇用制度および障害者雇用納付金制度を中心としつつ、重度障害者の雇用促進のためのダブルカウント制度や、 大企業における障害者の雇用促進のための特例子会社制度などを組み合わせた制度となっている。しかし、このような、障害者の為に行われている制度が“特別の意味を持った雇用”を生み、障害者の雇用に、いくつものディスアビリティを形成していると言える。
この制度で導かれることは、障害者が働くことが、権利ではなく、雇用主の根拠のない同情や恩情を拠り所にしていることであろう。
このような低い水準の賃金が出てくるのは、費用対効果によって障害者の労働を評価するとき、どうしても高い水準が出てこないことが考えられる。
しかし、賃金と工賃という考え方を取り入れると、時間給×労働時間が工賃で、賃金というのは労働の再生産費的要素が加わって、工賃の合計を上回るはずである。
障害者の雇用は、非正規雇用がほとんどで、割当雇用制度でのカウントも、特例子会社の雇用人数も、正規雇用の必要はなく、ほとんどが非正規雇用である。
非正規雇用は、労働の再生産費的要素を加えることなく、工賃の合計が報酬となるため、生活していけないような賃金水準となる。
こうして、費用対効果による低い水準の評価と、その低い水準の工賃は、障害者の収入を生活できない水準にしてゆく。
そこで、今回は、「障害者雇用の賃金とその意味」という事で、ベーシックインカム的な収入構造から考えてみたい。
内容を箇条書きしておく。
①ベーシックインカム的な収入構造
②制度的支援
③民間での取入れ
④ベーシックワークと収入補填やワークフェアとの根本的違い
⑤農業での取入れ~「農福連携」の問題点
⑥障害者雇用の賃金とその意味

倫理的配慮に関しては、金沢大学研究者行動規範に従い、「日本社会学会倫理綱領にもとづく研究指針」、「日本社会福祉学会研究倫理指針」などを参照し、個人情報の漏洩等が無いよう心掛けた。また、法人や団体の名称については確認を取り、問題の無い点を確認して、報告に配慮した。その他、研究に対する一般的姿勢は、日本学術会議の「科学者の行動規範」などに示されるように、自ら律するよう努めた。