研究報告 3-4

山田 裕一 (やまだ ゆういち)
立命館大学 衣笠総合研究機構生存学研究センター 客員研究員
熊本県発達障害当事者会 Little bit 顧問ソーシャルワーカー
発達協働センターよりみち センター長(相談支援専門員)

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#報告題目

編集される発達障害啓発・理解の穽陥
: 当事者会から見た熊本地震関連メディアを中心に

#報告キーワード

#報告要旨

発達障害に関する啓発・理解は近年大きな広がりを見せている。福祉や教育関係者以外でも発達障害という言葉を知らない人は少なくなってきている。平成17年に発達障害者支援法が成立、平成19年に国連総会において4月2日を世界自閉症啓発デーに定めることが採択され、それに伴い日本でも平成20年に4月2日から8日を発達障害啓発週間とすることが決定。発達障害啓発週間ではシンポジウムやブルー・ライトアップ等の啓発活動が活発化してきている。その他にも発達障害に関する啓発イベントや講演会や研修会も教育・福祉・就労分野を中心に多数開催され、支援機関だけでなく、親の会や発達障害当事者会が主催するイベントも少しずつ増えてきている。
更にテレビや新聞をはじめとした各種メディアでも、様々なアプローチから発達障害に関する報道等がされている。
しかし、災害時において、発達障害当事者がどのような社会的困難に陥るのかを伝えるものはほとんど存在しなかった。
2016年4月に起こった熊本地震後の「熊本県発達障害当事者会Little bit」(以下リルビット)のメンバーの置かれていた現状は以下の通りである

※山田(2016)「合理的配慮の再検討―熊本地震における発達障害当事者の苦悩と社会的排除の構造から考える」障害学会第13回大会から引用。

1.悩みや苦しみの内容が「感覚過敏」「情報の適切な取得」「コミュニケーションエラー」「ルーティン維持の困難性」等に起因しているため、深刻な問題と認識されにくく、話したとしても共感されにくい。
2.相談支援専門員等は担当利用者の安否確認にも数か月を要するような状況であっため、福祉サービス等を普段から利用していない当事者の相談する場所が更にない。
3.避難所では、感覚過敏やコミュニケーションの課題などで、大きなストレスを抱える上に、ストレスを自覚しにくく、いきなり倒れてしまうことも少なくない。

このような現状の中、発達障害当事者会Little bit(以下リルビット)に対して、複数のメディアから取材依頼が寄せられた。取材先に対してリルビットは以下の点を要請した。

1.発達障害は外見からはわからず、障害による困難がわかりにくく、根幹が伝えられたとしてもその困難に対して共感されにくい障害であるということ。
2.リルビットは震災支援団体「よか隊ネット」と連携をし、車中泊者の巡回相談、炊き出し支援等を始めとした「共助活動」を展開しているということ。
3.発達障害当事者が困っている点だけでなく、魅力や可能性があるということ。

一方でそれを受けてのメディアとのやりとりは概ね以下の通りだった。

1.新聞やテレビの取材の依頼が当事者会にも多数寄せられた。(Aテレビ局地方局ニュース4か所、テレビ番組2つ、新聞取材5紙、通信社1社、インターネット放送局1社)。同じテレビ局の系列地方局から同時に取材依頼
2.東日本大震災では子どもの発達障害に関する報道が中心であったが、今回は成人の発達障害に関することも報道され、把握している限りでは、そのほとんどが東日本大震災ではほとんど話題に上ることがなかった発達障害当事者会への取材をベースにしたものであった。
3.熊本地震ではフェイスブックやツイッター等のSNSが良くも悪くも活用され、当事者会に対するメディア取材のきっかけもSNS経由で連絡先を知り、電話やメールでアポイントがとられたものが大半であった。
4.取材依頼は原則すべて受けたが、メディアの中には長時間取材を受けたものの、一切取り上げられないケースも複数あった。
5.新聞記事等としてとりあげられたとしても、わかりやすく同情や共感を呼びやすいポイントのみがピックアップされる傾向がある。

特にテレビ取材は思潮社に対するなんらかのアピール要素が少ないという理由や、実態を伝えることが難しいというものであった。リルビット側の意図が一定反映された新聞記事は、現場の記者がリアルな表現を試行錯誤し、上司等から反対されても何度も挑戦しなおした結果であった。

リルビットでは支援機関だけでなく、様々な関係機関から研修の依頼があるが、わかりやすく認識しやすい形でのなんらかの答え、「正解」を得たいという依頼が多い。
本報告を通して、発達障害理解・啓発が常に編集されている現実と、その問題点について議論したい。

なお、本発表を行うにあたり、プライバシーの保護、人権の尊重等の倫理的配慮を行っている。