ポスター報告 8

植戸 貴子 (うえと たかこ)
神戸女子大学

#報告題目

知的障害者及び親の高齢化:現状と課題認識

#報告キーワード

知的障害 / 親/ 高齢化

#報告要旨

 近年は、知的障害本人の高齢化も進み(石渡 2000、植田 2013など)、知的障害者と高齢の親が同居する家庭の孤立(井土 2013)、「老障介護」の行き詰まり(田村 2007、植戸 2015など)、親による無理心中や殺害の発生(夏堀 2007)などが、深刻な地域課題として指摘されてきている(谷口 2014など)。
 本研究では、知的障害者及び親の高齢化に関連する先行研究をレビューし、知的障害者自身の高齢化の現状と課題、ケアを担う高齢の親たちの現状や思い、そしてこのような家族が直面する生活課題を探った。その結果、知的障害本人の加齢に伴ってケアの必要度が高まること(小川 2013など)、それに対して親の高齢化によってケア機能が低下すること、結果として親子のQOLの低下、介護疲れ、将来への不安といった生活上の問題が生じていることが明らかとなった(三原ら 2007、高林 2013など)。一方で、このようなニーズに対応する制度やサービスが不十分であることが確認できた。特に、多くの中高年知的障害者が同居の親によるケアに依存している現状に鑑み(高林 2013、上原 2013など)、このような家族に対しては、障害分野と高齢分野の有機的な連携に基づく生活支援や相談支援が不可欠であり(辻村 2015)、そのための実践研究を充実させる必要性が明らかとなった。
また、このテーマを取り扱った先行研究は、障害者福祉分野や高齢者福祉の分野のものが多く、障害学において、障害者とケアする家族に関する研究としては、土屋(2002)、中根(2006)、河北(2010)杉野(2013)、植戸(2015)などがあるが、「知的障害者及び親の高齢化」については、障害学ではこれまであまり取り上げられることがなかった。これらを踏まえると、実践面における「障害者ソーシャルワーク」と「高齢者ソーシャルワーク」の枠を超えた「コミュニティ・ソーシャル・ワーク」が求められると共に、障害学の枠組みからこのテーマにどう切り込むかも、今後の課題であると言えよう。
 なお本研究は、日本社会福祉学会倫理指針における「学会発表」の規定を遵守し、倫理的配慮を心がけて文献の引用等を行っている。

参考文献
石渡和美(2000)「障害者福祉における知的障害者への高齢化対応:『地域生活支援』をめざす行政施策と施設実践」『発達障害研究』22(2), 87-95
井土睦雄(2013)「福祉権利の分断性と孤立死:知的障害者・家族の孤立死問題をふまえて」『四天王寺大学大学院研究論集』7, 18-38
植田章(2010)「知的障害のある人の加齢と地域生活支援の実践的課題『知的障害のある人(壮年期・高齢期)の健康と生活に関する調査』から」『佛教大学社会福祉学部論集』6, 19-32
植戸貴子(2015)「知的障害児者の親によるケアから社会的ケアへの移行:親へのアンケート調査から」第12回障害学会ポスター発表
上原久(2013)「ケア会議のエスプリ:軽度の知的障害がある息子と同居する高齢者の支援」『ケアマネジャー』15(9), 64-72
小川勝彦(2013)「重度知的障害者の高齢化と医療福祉的問題」『障害者問題研究』41(1), 18-26
河北まり子(2010)「重度重複障害者の老・老介護の背景」第7回障害学会一般研究報告
杉野昭博(2013)「障害者運動における親と子の葛藤について」副田義也編『シリーズ福祉社会学2・闘争の福祉社会学:ドラマトゥルギーとして』133-150、東京大学出版会
高林秀明(2013)「知的障害者と家族の老いの暮らし:その社会的地位と社会保障の課題」『障害者問題研究』41(1), 10-17
谷口泰司(2014)「高齢知的障害者に対する地域支援を巡る諸課題:各種実態調査および地域生活支援諸施策の検証からの一考察」『発達障害研究』36(2), 120-128
田村恵一(2007)「障老介護についての一考察」『淑徳短期大学研究紀要』46, 19-31
辻村あずさ(2015)「社会福祉士における『高齢の親と知的障がいのある成人の子から構成される世帯』への支援に関する調査研究:横浜市の地域包括支援センターの場合」『ソーシャルワーク研究』1, 82-93
土屋葉(2002)「障害者家族を生きる」勁草書房
中根成寿(2006)「知的障害者家族の臨床社会学:社会と家族でケアを分有するために」明石書店
夏堀摂(2007)「戦後における『親による障害児者殺し』事件の検討」『社会福祉学』48(1), 42-54
\三原博光・松本耕二・豊山大和(2007)「知的障害者の老後に対する親達の不安に関する調査」『人間と科学 県立広島大学保健福祉学部誌』7(1), 207-214