ポスター報告 5

後藤 悠里 (ごとう ゆり)
 名古屋大学
佐藤剛介 (さとう こうすけ)
 名古屋大学

#報告題目

「合理的配慮」を人々にいかに伝えていくか ―質問紙調査の自由記述回答を手がかりに―

#報告キーワード

障害者差別解消法 / 合理的配慮 / 質問紙調査

#報告要旨

【1】背景
 「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(以下、障害者差別解消法)」が施行されて1年以上が経過した。障害者差別解消法のもとでは、不当な差別的取り扱いが禁止され、合理的配慮の提供が義務付けられることになった。
 合理的配慮の定義は、「障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」である(障害者の権利条約第2条)。障害者の取り巻かれる社会環境を変更・調整することを通じて、障害者が実際に相対している社会的障壁を削減・除去することが合理的配慮である。
 合理的配慮が何を意味しているのかについては、人々に十分に理解される必要がある。なぜならば、実際の「必要かつ適当な変更及び調整」を行う主体は、当該障害者と環境を共にしている周囲の人々であるからである。合理的配慮についての理解なしに、適切な合理的配慮を提供することは難しい。
しかし、合理的配慮がわかりにくいという声を聞くことがある。それは、日本語使用者の「配慮」に関するイメージから、合理的配慮、すなわち障害者の置かれている環境を変更・調整することを想起することが難しいためかもしれない。人々が合理的配慮概念をどのように捉えているかを知ることができれば、合理的配慮概念をより良く人々に伝えることができるのではないだろうか。

【2】目的
 そこで報告者らは、一般の人々が持つ障害者に対する合理的配慮に関するイメージについて調べるために大規模web調査を行った。本報告では、合理的配慮とは何かについて尋ねた自由記述回答の分析を通じ、人々が抱く合理的配慮に対するイメージを明らかにすることを試みた。
 
【3】調査方法
 本調査は、クラウドソーシング会社の登録者を対象に、2016年3月27日から31日の間に実施された。調査協力者(n =1,236)は、アンケート作成ソフトウェアにより作成・設置されたアンケートURLにアクセスして回答を行った。調査協力の対価として200円が支払われた。
 
【4】結果と考察
 「あなたが障害者に対する『合理的配慮』という言葉から連想するのはどのようなものですか。自由にお書きください」という質問項目には1,148件の回答があった。KH Coderを用いて分析を行ったところ、もっとも出現数が多かった単語は、「配慮」の591回であり、以下「障害者」(520回)、「手助け」(185回)と続く。質問文にある語句(「配慮」)、アンケートの性質上頻出することが考えられる「障害者」という言葉を除くと、「手助け」という言葉がもっとも頻出した単語ということができる。「手助け」という言葉が用いられている回答の一例は「弱者に対して必要ならば手助けをする配慮が必要だと思う」、「必要なところで手助けをしてあげる」などである。
「合理的配慮」という言葉によって人々は「手助け」を連想し、その発想のもとで合理的配慮を理解していることに注意しておかなければならない。この捉え方は、現在の社会のあり方を問い直そうとする「障害の社会モデル」の考え方からは遠い位置にある。「配慮」の持つ辞書的な意味合いからいったん距離をとってもらいながら、「障害の社会モデル」や社会的障壁に言及することによって、合理的配慮概念の内容を正しく伝えることができるだろう。

【5】倫理的配慮
 本調査はクラウドソーシング会社を通した報告者の一人からの依頼に対し、回答者が自発的に回答することを選択して行われるものである。したがって、回答者への侵襲性は小さいと考えられる。しかしより慎重を期すために、調査の合意が得られた場合にのみアンケートに答えられるようにする、答えにくい質問については回答を飛ばしてよいと記載するなど、倫理的に十分配慮した形で調査を行った。