ポスター報告 30

熱田 弘幸 (あつた ひろゆき)
全障連関東ブロック
斉藤 龍一郎 (さいとう りょういちろう)
アフリカ日本協議会

#報告題目

「千葉・習志野市役所障がい者差別解雇事件における社会的意義」

#報告キーワード

障がい者差別 / 就労 / 解雇

#報告要旨

経過

2015.5   Aさん「身体障がい者枠」で習志野市正規職員に採用

2015.6.1  介護保険課で勤務開始
2015.11.30 条件付採用期間の終了するこの日、突然条件付採用を3か月延長、総務課への異動を人事課長から通告される

2016.2.29  Aさん解雇。同日Aさんが自分の勤務実績報告書(解雇の根拠になった課長によるAさんの評価一覧)を情報公開請求。

2016.12.9 千葉地裁で第1回裁判。Aさんと弁護側の意見陳述が行われ、新聞6紙(朝日、毎日、読売、東京、千葉日報、産経)や千葉テレビニュースで報じられた

2017.2.17第2回裁判。当局側準備書面により、2016年12月から2017年2月まで3か月間の総務課勤務の期間、一日中Aさんの一挙手一投足を記入した「監視記録」(ネクタイが曲がっていた、5分前に出勤するよう指示したのに3分前に出勤した、などおよそ解雇の理由になどならないささいなことを職員にまで密告させ、Aさんに内緒で記入)を作っていた、つまり総務課は、解雇に追い込むための「追い出し部屋」だったことが明らかになり、その後3月議会でもこの人権侵害が問題になり、新聞にも報道された。裁判の中で当局は「上司個人が書いた実績報告書の評価が60点に満たないため解雇した。その法的根拠は次回裁判に提出するが、実績報告書そのものの内容は墨塗りで、開示しない」と回答したため、裁判長から「それでは解雇の是非を論じられないのでは」と疑問が出された
2017.4.7第3回裁判。当局側は「60点を解雇基準にする法的根拠はない」ことをついに認め、また頑なに開示を拒否していた上司個人による勤務実績報告書をしぶしぶ開示した。しかもその中身がAさん解雇という結論につじつまを合わせるため、どの項目もほぼ最低評価にしてあり、「勤勉」については「何の役にも立たない」、「信頼性」については「まかせることは全くできない」などAさんの人格を全面否定したひどい内容であることが明らかになった。障がい者枠で採用したにもかかわらず、Aさんは「あまり健康でない」から能力不足、「ネクタイが曲がってい」るから「社会人として不適格」、「迷惑な存在」など、障がい者を「迷惑な存在」として排除しようとする、おぞましい差別文書であることも判明した。

解雇の問題点

・誰もが驚く「障がい者枠で雇用した職員を『能力不足』で解雇」という暴挙

「障がい者枠で雇用した職員を『能力不足』で解雇」と聞いて驚かない人はいません。人間にはいろいろな個性があります。「事務能力」だけで一律に人間を判断する職場は冷え冷えしたものになり、行き詰まります。障がいも個性であり、障がいのある人を理解し、必要な配慮を行うことによって、今いる個々の職員にも実は配慮が必要だったことに気づく場合もあります。
「障がい者だからと言って特別の配慮はしない」「障がい者にも他の一般職と同じ能力が求められる」と平気で言う総務部長発言は、単なる「不見識」ではすまされません。障がいを持った職員を受け入れる場合の指針もマニュアルも持たない「ないないづくし」の習志野市。本来は民間の障がい者雇用を推進するため率先垂範しなければいけない自治体がこのありさまであることに誰もが驚いています。
・4月の「障害者差別解消法」「改正障害者雇用促進法」の施行を前にした「駆け込み」解雇は「共生社会」への挑戦

2006年国連総会で「障害者の権利に関する条約」が採択され、千葉県ではその年の10月、全国に先がけて「障がいのある人もない人も共に暮らしやすい千葉県づくり条例」を制定しました。2014年には日本政府も「障害者の権利に関する条約」を批准し、2016年4月には「障害者差別解消法」「改正障害者雇用促進法」が施行され、障がい者への「合理的配慮」が義務づけられるなど、共生社会に向け、社会が一歩一歩前進しつつあります。
こうした流れに挑戦するかのように、「4月以降の障がい者解雇は難しくなる」、と危機感にかられた習志野市はこれらの法律施行の直前、2月29日に「駆け込み解雇」を行ってきたのです。極めて悪質です。
・背景に習志野市の障がい者差別体質とコンプライアンス(法令順守)違反

「障害者雇用促進法」では自治体の障がい者法定雇用率は2.3%となっていますが、習志野市は2008年以降ずっとこれに違反し2014年には県下最下位「あと5.5名障がい者を雇わなければ法令違反」という異常事態でした。
千葉労働局から是正指導が行われ2015年4月には県でやっているチャレンジドオフィスが習志野にも作られ、6月には「障がい者枠」で2名を雇用し、やっと法定雇用率をクリアしましたが、2名のうち1名は退職、もう1人のAさんも不当解雇され、再び法令違反状態になりました。「法律違反だ、と指摘されたので仕方なく障がい者枠で雇用したが、障がい者を職場に受け入れるための配慮はしない」という習志野市の法令順守意識の低さ、障がい者差別体質が今回の事件を引き起こした、と言えます。

倫理的配慮については、当該事例は「「骨格提言」の完全実現を求める大フォーラム実行委員会」での取り組み事項であり、小生が主担当で
支援している事案のため特に問題はありません。ルポ的に報告を行いたいと思います。