ポスター報告 29

西田 玲子 (にしだ れいこ)
東京大学大学院教育学研究科附属バリアフリー教育開発研究センター

星加 良司 (ほしか りょうじ)
東京大学大学院教育学研究科附属バリアフリー教育開発研究センター
飯野 由里子 (いいの ゆりこ)
東京大学大学院教育学研究科附属バリアフリー教育開発研究センター

#報告題目

障害者差別解消法企業向けeラーニングの受講結果における属性、経験別の傾向

#報告キーワード

障害者差別解消法 / 研修プログラムの開発 / 研修のターゲティング

#報告要旨

<目的>
旅行関連企業の従業員向けに開発した障害者差別解消法eラーニングの受講結果を属性や経験別に分析し、特に研修が必要な層について報告する。

<背景>
解消法に関する理解を促すため、旅行関連企業の従業員向けeラーニングのコンテンツを開発した。

・従業員向け研修の必要性
一般の消費者を対象にサービス提供を行う事業者が法を遵守するためには、従業員が、解消法の趣旨、法的義務を理解し、実際の場面で活用できる知識を身につける必要がある。

・旅行関連企業の特徴
旅行会社の提供するサービスは、旅行の提案や申込など自社で行うものに限らない。
特に旅行先では、交通機関、宿泊施設、観光施設、飲食店等、多数の事業者が関係し、実際の合理的配慮の提供については他の事業者に依頼しなければならないことも多い。

・eラーニングのコンテンツ概要
基礎編と実践編の2種類(合格点80点以上/100点)
基礎編:解消法に関する基本的な知識(法の趣旨、新たな2つの義務(不当な不利益取扱いの禁止と合理的配慮の提供)の理解と定着を図るための選択式問題)。
実践編:エピソード問題(個別場面での適切な対応をロールプレイング形式で考えさせる問題)とドリル問題(不当な不利益取扱いと合理的配慮に関する知識を確認する正否問題)。

<調査デザイン>
eラーニングの受講者に、任意のアンケートという形で協力を依頼し、属性等を収集した。
結果、1269件の調査データを得た。

・属性、経験の分類について
年齢(20代、30代、40代、50代、60代、70代以上)
性別(女性、男性)
現在の役職(一般社員、係長相当、課長相当、部長相当、役員、その他)
所属する事業所の規模(1-49人、50-299人、300-999人、1000人以上)
在籍年数(3年未満、3年以上-10年未満、10年以上-20年未満、20年以上-30年未満、30年以上)
現在の雇用形態(正規の従業員、非正規の従業員、その他)
障害者と関わった経験の有無(自分に障害がある/あった、家族に障害者がいる/いた、友人に障害者がいる/いた、クラスメートに障害者がいる/いた、同じ職場に障害者がいる/いた、その他(自由記述)、障害者と身近に接したことはない)
過去3年以内に受けた研修等の有無
など

・受講企業
旅行会社、観光協会、添乗員派遣会社など。
添乗員業務に就いている受講者が多数。

<倫理的配慮について>
日本社会学会倫理綱領、日本社会福祉学会研究倫理指針の内容を踏まえ、被調査者のプライバシーやデータの取扱いには適切な配慮を行なっている。

<分析結果>
初回合格率は、基礎編が27.6%、実践編が78.6%
解消法に関する基礎的な知識が不足している傾向が見られる。
一方、エピソード問題の正答率は高い。

・eラーニングの結果を属性、経験別に分析
①性別+年代20代男性、60代男女の基礎編合格率が低い。
基礎編:20代男性(18%)、60代女性(20%)、60代男性(21%)
実践編:20代男性(57%)、60代女性(73%)、60代男性(89%)
基礎編合格率は男性の方が高く、実践編合格率は女性の方が高い。
基礎編:女性(27%)、男性(29%)
実践編:女性(79%)、男性(76%)

②役職
役職がある人の方が基礎編合格率は高い。
基礎編:一般社員(25%)、係長相当(56%)、課長相当(42%)、部長相当(80%)、役員(50%)、その他(27%)
実践編:一般社員(80%)、係長相当(83%)、課長相当(92%)、部長相当(80%)、役員(100%)、その他(77%)

③雇用形態
非正規の合格率は、正規よりも低い傾向にある。
基礎編:正規(34%)、非正規・その他(26.5%)
実践編:正規(86%)、非正規・その他(77.3%)
→非正規労働者に対する研修機会を十分に確保する必要あり。

④障害者との関わり
障害者と接したことのない人は、最も合格率が低い。
複数の場で障害者と関わった経験のある人は、基礎編・実践編とも合格率が高い。関わった経験のある障害者が「家族のみ」、「同僚のみ」の場合、基礎編の合格率が低い。
基礎編:接したことなし(22%)、家族のみ(24.1%)、同僚のみ(26%)、家族+α(36.6%)、同僚+α(35.2%)、自分+α(25.0%)、友人・クラスメート+α(33.8%)
実践編:接したことなし(78%)、家族のみ(84.2%)、同僚のみ(74%)、家族+α(81.2%)、同僚+α(81.3%)、自分+α(75.0%)、友人・クラスメート+α(80.0%)
※「+α」について
たとえば「自分+α」の場合、αには「家族」「同僚」「友人・クラスメート」のいずれか1つ以上含まれる。

⑤研修等の有無
研修に参加した経験のある人は、合格率がやや高い傾向にある。
基礎編:参加経験あり(30%)、参加経験なし(27%)
実践編:参加経験あり(80%)、参加経験なし(78%)