ポスター報告 27

望月 隆之 (もちづき たかゆき)
田園調布学園大学
田中 恵美子 (たなか えみこ)
東京家政大学

#報告題目

知的障害者の結婚生活の経験と支援―インタビュー調査からの考察―

#報告キーワード

知的障害者 / 結婚生活 / 意思決定支援

#報告要旨

1.研究目的
 本研究は、知的障害のある夫婦へのインタビューを通して、知的障害者の結婚に至る経験を明らかにし、その支援のあり方を検討することである。わが国は2014年に「障害者権利条約」を批准し、第23条では「家庭及び家族の尊重」が掲げられ、結婚可能な年齢の障害者が、両当事者の自由かつ完全な合意に基づき結婚すること及び、家族を形成する権利が認められることを保障している。
 しかし、障害者の結婚、特に知的障害者の結婚は依然として周囲の反対を受ける場合があり、日常生活の運営・管理に支援が必要であることが多いことから、家族や関係者を含めた周囲の理解を得られなければ結婚することがより困難である。田中(2014)は、知的障害者の夫婦を対象とした面接調査を行い、結婚生活のプロセスにおいて健常者と変わらない経験をしていたが、一方で交際の場が限定され、親族の反対や無関心の為、施設職員の積極的な支援を必要とする実態を明らかにした。
 本研究は、知的障害者の結婚や子育てに関する支援の充実に向け、知的障害者の経験する意味世界を明らかにする調査研究の一部である。
 
2.研究の視点及び方法
 本研究に関わる調査は2010年から継続して行われてきた。本報告では、このうち2017年に行ったインタビュー調査を対象とする(現在進行中)。
 本研究では、インタビューで得られたデータを基に質的データ分析法を用いて分析を行った。質的データ分析法を採用した理由は、知的障害者の結婚に至る経験やその支援のあり方についての先行研究の蓄積がほとんどないため、演繹的推論ではなく、帰納法を用いた検討が妥当であると考えたからである。
 調査方法はインタビュー調査である。本研究に同意の得られた、現在結婚生活をしている知的障害のある女性(Aさん)へのインタビュー(1時間1分)を実施した。インタビューは、半構造化された対話式で行われ、出会いから結婚までの経過を中心に語られた。なおAさんの希望により、インタビュー時に支援者Cさんも同席した。
 調査対象者の選定は、先行研究によって明らかとなった先駆的実践を行っている事業所を介して行われている。インタビューは同意を得て録音し、のちに逐語録を作成し、繰り返し読み、全体を把握して分析を行った。

3.倫理的配慮
 インタビュー調査実施にあたり、調査対象者に調査の趣旨と内容の説明を行い、誓約書と同意書を取り交わした。インタビューの録音及び逐語録作成については調査対象者の同意を得た上で実施している。また、調査対象者の個人情報の保護に努めるとともに。個人が特定されないように特段の配慮を行う旨を説明し、退席の自由についても言及している。なお本研究は東京家政大学研究倫理委員会の承諾を得て実施されている。

4.研究結果
 調査は継続中で、本概要は暫定的結果である。また紙面が限られるため、一部となる。
 AさんとBさんは通勤寮で知り合った。通勤寮にいる間に、BさんからAさんに交際の申し出があったが、Aさんは断っている。しかし、Aさんは次第にBさんへの恋心を募らせていった。その後、Bさんはすぐに退寮し、Aさんは約3年寮に残った。その後、Aさんの退寮をきっかけに、Bさんからの再度のアプローチに応える形で、交際がスタートした。約6年の交際期間を経て、AさんからBさんへ結婚の意思を伝え、Bさんも了解した。 
 結婚への移行の準備(式場の手配、親族への連絡と同意、招待者の決定、新婚旅行の計画)は、お互いが話し合いながら進めていた。支援者のCさんは、引き出物の購入や結婚式費用についての支援(金銭の支払いに関する支援)を行っているが、2人の意向を尊重していた。

5.考察
 AさんとBさんはお互いが自立した後に交際を開始している。交際後に、Aさんが結婚を意識し始め、結婚生活への移行準備について、Aさんが積極的に意思決定し、Bさんとの合意のもとで行われている。そして、支援者であるCさんと出会い、結婚生活に向けた側面的な支援が、結婚生活への移行に大きな効果をもたらしたと考えられる。特に、Cさんは2人の意向に任せる姿勢を貫いており、知的障害者の意思決定支援に繋がっているといえよう。また、親族からの反対はなく、祝福されたことも大きい。
 結婚生活への移行は、お互いの意思決定に基づき、結婚生活への準備が進められたこと、支援者による側面的な支援があったこと、親族からの反対はなかったことが重要な要素であり、改めて先駆的実践を行っている事業所は、知的障害者の意思決定を尊重している実態が明らかとなった。

<参考文献>
長瀬修・東俊裕・川島聡(2012)『障害者の権利条約と日本―概要と展望―』生活書院
田中恵美子(2014)「知的障害者の『結婚生活』における経験と支援―生活構造論と生活の資源の枠組みを用いて」障害学研究10,明石書店
佐藤郁哉(2008)「質的データ分析法:原理・方法・実践」新曜社