ポスター報告 24

丸岡 稔典 (まるおか としのり)
名古屋産業大学現代ビジネス学部

#報告題目

世田谷における障害者を中心としたまちづくり運動の政策参加過程

#報告キーワード

まちづくり運動 / まちづくり条例 / 政策参加

#報告要旨

1. はじめに
 福祉のまちづくり運動は今自立生活運動の源流の一つに数えられているが,障害者が一市民として主体的に関わり,障害者だけでなく市民の利益に結び付いた市民運動として始まったが,その後,市民の理解と協力・参加が育たないまま,物的環境の改善に偏重したとの評価もあった.
 報告では,世田谷区における障害者を中心としたまちづくり運動が,行政の政策へ参加する過程を分析し,福祉分野に限定されない社会的障壁の解消の活動の成立条件を明らかにする.
 対象となる世田谷区は古くから養護学校が存在し,卒業後も卒業生と家族が定住した.そのため,学校周辺を中心に多数の障害者が居住していた.分析では障害者運動や福祉環境整備に関係して団体,個人により公開を前提として書かれた文献を主な資料とした.

2. 世田谷における福祉のまちづくり

2.1 障害者を中心としたまちづくり運動の展開
 世田谷区では1974年から1977年にかけて小田急線梅ヶ丘駅の階段のスロープ化などを求める運動が展開された.その過程で障害者たちは,1)家族による介助に依存していることため自由な外出に制約があること,2)障害者だけの特殊な運動ではなく,より広い人たちの理解と協力に基づく市民運動が必要であること,の二つの課題を認識した.
 後者の課題を意識した障害者たちは,世田谷ボランティア連絡協議会を中心としてまちづくり運動に取り組んだ.世田谷ボランティア連絡協議会は,障害者と健常者が同じ地域の市民として参加し,地域に住むニーズを抱えた人々の課題を自分たちの問題として学び合うといった特色が存在し,活動でも単なる物理的な環境の改善の問題ではなく,障害者に対する理解や互助精神など福祉風土の形成を重視した.
 生活場面における介助の必要性から,1990年に前者の課題に取り組んできた団隊のメンバーと後者の障害者を中心としたまちづくり運動のメンバーが合流する形で,自立生活センター「HANDS世田谷」を設立し,組織的に障害者へ介助者を派遣しながら地域生活を支援する活動がなされた.

2.2 行政による福祉的環境整備
 世田谷区では,1980年代以降「福祉のまちづくりのための施設整備要綱(1982年)」,「やさしいまちづくりのための施設整備要綱(1993年)」などで,整備基準を示してきた.また,1982年に都市デザイン室が設けられ,公共空間や公共施設の構想やデザインに住民の意見を取り入れる体制がつくられた.その一環として,「ふれあいのあるまちづくり」事業の中で梅ヶ丘中学校前歩道整備事業 (1984~1986年)が実施され,説明会や定例会などで住民と区の協働が図られた.事業を通して車いすでも利用しやすい歩道や電話ボックスなどが整備された.

3. 世田谷区福祉のいえまち推進条例の策定過程

3.1 条例策定過程
 1995年になり,東京都福祉のまちづくり条例が制定されたこともあり,世田谷区役所でも強制力のない要綱ではなく,まちづくり条例を制定する動きが生まれた.8月には条例骨子案の説明が行われ,11月に「世田谷区福祉のいえ・まち推進条例」が公布された.翌年4月より福祉的環境整備審議会で具体的な整備基準の議論が開始された。

3.2 条例への障害者団体の取り組み
 HANDS世田谷では1994年に外出ガイドブックを作成しが,その過程で,区のまちづくり部門と関係が構築され,また,障害者が外出しやすい環境をつくるためには個々の活動にとどまらない幅広いネットワークが必要であることが認識された.その後,条例制定の動きを入手し,1995年7月にHANDS世田谷を中心に参加27団体により福祉のまちづくりネットワーク(以下福まちネット)が発足し,アドバイザーに建築・土木・都市計画・障害福祉の専門家が参加した.福まちネットは条例策定過程で,要望書や対案を提出した.対案では1)物理的環境(ハード面)とマンパワーなどソフト面の一体化,2)策定過程と施行後の当事者参加,3)基本的人権の視点の導入,などが提起された.対案は条例に反映されなかったが,1)は翌年の「地域福祉推進条例」に部分的に取り入れられ,2)は,福祉的環境整備審議会に福まちネットワークのメンバーが委員となることで部分的に実現した.ただし,基本的人権の視点の導入についてはその後の課題として残された.福祉まちネットは翌年5月に「まちづくりプレゼンツ’96」を開催し,条例の普及にも取り組んだ.

4. 考察
 世田谷で展開された障害者によるまちづくり運動は,障害者の当事者性を過度に重視せず,地域住民との対等な関係による障害者への理解に力点を置き,専門家やほかのグループを巻き込むことで,行政への要求型運動とは異なる,政策提案・参加型の活動へと変化することが可能となった.他方で,こうした活動には,基本的人権など障害者固有の課題を政策に反映させるうえでの課題も残された.

5. 倫理的配慮
 報告では文献研究を中心とし,引用は原点から行い,引用部分の著者名・タイトル,出版年などを明記する.