ポスター報告 15

北畑彩子 (きたはた あやこ)
聖徳大学児童学部

#報告題目

カナダ・障害者州組織連合による平等な雇用機会の模索

#報告キーワード

カナダ / 障害者州組織連合 / 雇用機会

#報告要旨

Ⅰ.本研究の目的と方法
 本研究は、1976年にカナダ・マニトバ州において肢体不自由者を中心として組織され、連邦政策に対して影響力を有していた障害者州組織連合(Coalition of Provincial Organizations of the Handicapped: COPOH)の活動を検証するものである。COPOHは、国際的な障害当事者組織、障害者インターナショナル(Disabled Peoples’ International: DPI)の立ち上げに重要な役割を果たした組織であり(Drieger, 1989)、カナダ国内においては、1982年憲法に障害者の平等権規定を盛り込むよう連邦政府に対して主導的に働きかけ、それを実現させた組織でもある(D’Aubin, 2001; Peters, 2003)。
 障害に関わる多様な問題に取り組んできたCOPOHであるが、なかでも就労の問題は、同組織にとって喫緊の課題であったと同時に(COPOH, 1992)、解決に困難を極めたものであった(Jongbloed, 2006)。COPOHは、一般の社会構成員と平等な雇用機会の実現を目指し活動を展開する。本報告では、彼らが目指した平等な雇用機会とはいかなるものであったのか、またその実現のためにどのように社会と調整を図ったのかを明らかにすることを目的とする。
 こうした活動の歴史は、わが国が推進していくべき障害者の社会参画の場面、すなわち障害者の政策決定過程への参画や、雇用主に対する合理的配慮の要求といった場面で、障害者の利益を、社会の利益といかに調和させ確保していくか、その視座を提供するものと考える。
 対象時期は、1970年代初頭から1980年代初頭までとする。主な分析対象資料は、COPOHの構成員が作成した著作物、会議録、報告書、書簡とする。
 なお本研究は、社会福祉学会の倫理綱領に基づく研究指針を遵守して実施する。
 
Ⅱ.結果
 以下、研究結果の要点を論ずる。その詳細と考察については当日の発表資料を参照されたい。

1.COPOHの設立経緯
 COPOH設立のキーパーソンの一人、J. ダークセン(Jim Derksen 1947-)は、幼少期にポリオに罹患し、マニトバ州において車椅子を利用しながら、地域の公立学校に通い、大学に進学、民間企業にて勤務する中で、アクセシビリティ等の社会的障壁を実感した。同様の経験を有する障害当事者が集結し、リハビリテーションの専門職組織に反発したことをきっかけとして、1976年に各州の組織の連合体としてCOPOHは設立された(Derksen, 2011)

2.雇用問題に対する基本方針
 COPOHは障害者の深刻な失業状態を問題視し、「第二等の市民の地位を甘受せず、一般レベルへと雇用水準を上げなければならない。保護されたり隔離されたりせず、ノーマルな生活の機会を得て、基本的なリスクと責任を負う必要がある」との基本方針を示している(COPOH SPTFEO, 1980)。

3.保護作業所に対する批判
 連邦政府と作業所運営者らによる、作業所の産業化を図る事業に対しCOPOHは、そもそも作業所の存在が不適切であると主張した。すなわち、最低賃金を順守した給与や保険の適用なしに、訓練生に商業用の商品を生産させている無益なものであること、そして、同事業が搾取的な賃金の下実施されており、それは障害者の人権を否定するものであると批判した(Galer, 2014)。しかし、その後両者には積極的に協議しようとする歩み寄りの姿勢が見られ(CCRW-COPOH letter November 27, 1980; January 8, 1981)、基本理念は維持しながらも、相手の主張も冷静に聞き入れようとするCOPOHの柔軟な態度が窺える。
 
4.労働組合との協同
 COPOHは、保護作業所を含む雇用問題の改善に向けて1981年頃から全国州公務員組合(National Union of Provincial Government Employees: 以下,組合)と協同するようになる。カナダでは1978年度だけで、9万人以上が業務関連で障害を負っており、障害を有する組合員を保護することは組合の責務であることから、COPOHから得られる知見は組合にとって有用であった。一方、組合は多くの一般人を包摂していることから、COPOHは組合と連携することで、一般社会の障害者に対する差別偏見を払拭しやすくなると考えた。こうして共通の利益を見出した両組織は、1981年10月に連邦・州政府に対して最低賃金法の改正を協同して訴え、法管轄下のすべての労働者について、最低賃金を保障することを実現させた。さらに両組織は協同して雇用問題に関する調査研究も実施し、客観的根拠に基づく主張を構築していった(Fudge, Holmes, NUPGE & COPOH, 1983)。

文献
CCRW-COPOH letter November 27, 1980. Archives of Manitoba, P5364 file 19.
CCRW-COPOH letter January 8, 1981. Archives of Manitoba, P5364 file 19.
COPOH(1992)COPOH Brief to Special Parliamentary Committee Reviewing Employment Equity Act February, 1992. Archives of Manitoba, T-12-8-8 file 9, 1992-93.
COPOH SPTFEO(1980)SUBMISSION TO THE PARLIAMENTARY TASK FORCE ON EMPLOYMENT OPPORTUNITIES FOR THE 80’S. Archives of Manitoba, P5364 file 20, 1979-1981.
D’Aubin, A.(2001)The Canadian Charter of Rights and Freedoms: The Political Battle over Four Words. In W. Boyce, M. Tremblay, M.A. Mccoll, J. Bickenbach, A. Crichton, S. Andrews, N. Gerein, & A. D’Aubin (Eds.), A Seat at the Table Persons with Disabilities and Policy Making. McGill-Queen’s University Press, 49-65.
Derksen, J.(2011)Interview, February 17, 2011.
Drieger, D.(1989)The Last Civil Rights Movement Disabled Peoples’ International. C. Hurst & Co. Ltd., London. 長瀬修編訳(2000)国際的障害者運動の誕生 障害者インターナショナル・DPI. 筒井書房.
Fudge, D., Holmes, P., NUPGE & COPOH(1983)Together for social change: employing disabled Canadians. National Union of Provincial Government Employees and Coalition of Provincial Organizations of the Handicapped.
Galer, D.(2014) “A Place to Work Like Any Other?” Sheltered Workshops in Canada, 1970-1985. Canadian Journal of Disability Studies, 3(2).
Jongbloed, L. (2006) Disability Income and Employment Policies in Canada: Historical Development. In M. A. McColl & L. Jongbloed (Eds.), Disability and Social Policy in Canada. Captus Press, Ontario, 243-253.
Peters, Y.(2003)From Charity to Equality –Canadians with Disabilities Take Their Rightful Place in Canada’s Constitution-. In D. Stienstra & A. Weight-Felske (Eds.), Making Equality –History of Advocacy and Persons with Disabilities in Canada-. Captus Press, Ontario, 119-136.