ポスター報告 14

小川 喜道 (おがわ よしみち)
神奈川工科大学

#報告題目

手話言語条例に基づく手話普及推進計画策定プロセスにみる課題

#報告キーワード

手話言語条例 / 計画策定プロセス / パブリック・コメント

#報告要旨

1.はじめに
 国連・障害者権利条約の第2条(定義)において、「言語とは、音声言語及び手話その他の形態の非音声言語をいう」と定められている。第21条では、「公的な活動において、手話や障害者が自ら選択する全ての利用しやすい意思疎通の手段を容易にすること」、そして「手話の使用を認め、及び促進すること」としている。
 手話の復権、すなわち、ろう文化の復権ともいうべき条約は、国内法の改正につながり、障害者基本法(2011改正)では、第3条において「全て障害者は、可能な限り、言語(手話を含む)その他の意思疎通のための手段についての選択の機会が確保されること」と表現される。ちなみに、2017年7月12日現在の全日本ろうあ連盟「手話言語条例マップ」によれば、13県79市9町、計101自治体が条例を成立させている。

2.神奈川県の事例
 神奈川県手話言語条例は2015年4月に施行され、その附則には、「知事は、この条例の施行の日から起算して5年を経過するごとに、この条例の施行の状況について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。」とある。そして、第1条(目的)施策推進の具体化では、「手話の普及等に関する基本理念を定め、県の責務並びに県民及び事業者の役割を明らかにすると共に、手話の普及等に関する施策を推進するための基本的事項を定め、もってろう者とろう者以外の者が、相互にその人格と個性を尊重し合いながら共生することのできる地域社会を実現する。」としている。
 第8条(手話推進計画)にて、「県は、基本理念にのっとり、手話の普及等に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、手話の普及等に関する計画を策定しなければならない。県は、手話推進計画の策定又は変更に当たっては、県民の意見を聴き、これを反映することができるよう、必要な措置を講ずるものとする。」とされている。

3.神奈川県手話言語普及推進協議会2015年度の動き
 本協議会は19名の委員で構成され、ろう者・盲ろう者団体4名、聴者15名である。ポスター発表では、協議会の発言量を開催ごとに示す。各分野の代表者である委員は、それぞれの立場の違いはあるが、協議会の到達目標に向かっての意見を述べている。その前提は、ろう者自身の意向と教育、就労、医療等の分野でどのように反映できるかの葛藤と可能性が含まれていた。2015年度に5回実施され、各回の傍聴人数は約30名であった。
計画に盛り込まれた3つの施策としては、①手話の普及、②手話に関する教育及び学習の振興、③手話を使用しやすい環境の整備、であった。

4.パブリックコメントの状況
 意見募集期間は2015年12月24日から1ヶ月間、意見募集方法は県ホームページへ掲載(活字版・手話動画版)、各県政情報コーナーでの閲覧及び配布、手話による意見聴取会の開催、市町村への意見照会であり、郵送、ファクシミリ、電子メール、意見聴取会となったが、動画での提出をパブリックコメントとは認められないというやりとりが続いた。それは、「県民意見反映手続要綱」には手話が入っていないという理由であったため、条例に手話を言語としていることと矛盾することとなった。結果的には、当事者団体意見聴取会における意見(13団体)42件、及びDVD等による手話動画投稿による意見(意見提出者数47)75件であり、パブリックコメント数は総計24,787件(意見提出者6,757人)に及んでおり、手話普及推進への関心の高さを示していた。

5.まとめ
 計画への反映状況として上げられるのは、盲ろう者にも焦点が当てられ、計画に包含、手話を学ぶことと手話通訳との区別化、災害時の対応の必要性、一般校における手話学習の時間制約、ろう学校における日本手話の教育、障害者関連の諸法との関連性、パブコメを手話での提出、などであるが、次のような論点にまとめられる。
 論点(1)計画のあり方として、・計画の具体性を欠くことと普及評価の方法が未検討、実態把握に基づく目標値の設定に弱点、他法(障害者差別解消法、改正雇用促進法など)との関係が不明確
 論点(2)手話の普及として、・単発の「実施証拠となる」事業が中心、・公共・公的機関での手話対応について具体的対策が見えにくい、・一般学校の教育や諸活動は未検討、・ろう学校での手話教育について未検討
 論点(3)手話通訳者に対する評価・充実として、・市町村により、身分、報酬、支援内容などが異なり、公平性に欠く、・警察、消防、医療、介護施設など公共性の高い分野に手話通訳の対応が遅れがち、・手話通訳制度と労働条件の再検討が必要、・災害時通訳の保障が未検討
 なお、本発表においては研究倫理に基づき、個人を特定する発言は取り上げず、県HPにて一般に公表されている議事録や審議資料に基づいて計画策定の動きを調査、検討したものである。