三島 亜紀子 (みしま あきこ)
甘夏だれでも食堂
#報告題目
障害者の自立生活運動と「アンペイド・パブリック・ワーク」の相容れなさ
: 地域共生社会にみる参加の原理
#報告キーワード
自助・共助・公助論 / アンペイド・パブリック・ワーク/ 「我が事・丸ごと」地域共生社会
#報告要旨
政府は2月7日、「地域包括ケアシステムの強化のための介護保険法等の一部を改正する法律案」(以下、「地域包括ケア強化法案」)として、介護保険法の見直し案のほかに、障害者総合支援法を含む30本の法律の見直しを一括で提案した。
また同日、政策統括官(総合政策担当)が実施する検討会、厚生労働省の「我が事・丸ごと」地域共生社会実現本部は、「『地域共生社会』の実現に向けて(当面の改革工程)」を発表している。ここでは、「地域住民や地域の多様な主体が『我が事』として参画し、人と人、人と資源が世代や分野を超えて『丸ごと』つながる」、「地域共生社会」の構想が打ち出された。高齢化や人口減少、単身世帯の増加、職場での人間関係も希薄化するなか、「社会的孤立」の問題が表面化しているとし、かつての相互扶助や家族同士の助け合いといった「住民がつながり支え合う取組を育んでいくことが必要」とされた。
たとえば後者の文書における、「地域は、高齢者、障害者、子どもなど世代や背景の異なるすべての人々の生活の本拠である」(厚生労働省2017:2)、「地域は、高齢者、障害者、子どもといった世代や背景が異なる人々が集い、ともに参加できる場である」(厚生労働省2017:3)という表現は、これまでの障害者運動や障害学が主張してきたことと重なるように思える。
私たちは、こうした政府が描く社会保障制度の青写真に対し、どのような姿勢で臨めばいいのだろうか。
本報告の目的は、①「地域包括ケアシステム」「『我が事・丸ごと』地域共生社会」の概念を明らかにし、②そこで「参加」が想定されている人員は誰か、また「参加」の動機づけがどのようになされるかを考察し、③「アンペイド・パブリック・ワーク」の概念を明らかにしつつ、これらが自立生活運動と相容れない性質を持つことを示すことである。
「地域包括ケアシステム」とは、「高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、地域の包括的な支援・サービス提供体制」を整備することで、「元来、高齢者に限定されるものではなく、障害者や子どもを含む、地域のすべての住民のための仕組みであり、すべての住民の関わりにより実現」するものとされる。
また「地域共生社会」とは、「制度・分野ごとの『縦割り』や『支え手』『受け手』という関係を超えて、地域住民や地域の多様な主体が『我が事』として参画し、人と人、人と資源が世代や分野を超えて『丸ごと』つながることで、住民一人ひとりの暮らしと生きがい、地域をともに創っていく社会」を目指すものである(厚生労働省2017:2)。
これらで想定されている「参加」主体は、「ご近所、自治会」、「地域の社会資源(インフォーマルサービス等) ボランティア、PTA、老人クラブ、子ども会、NPO等」、「地域活動を行う地区社協、福祉委員会等 民生委員・児童委員」である(厚生労働省2016:8)。こうした政府の動きに対し、きょうされん理事会は、予想される利用者負担の増加や、「地域力」という名のもとでボランティアを積極的に活用しようとしているとして懸念を抱いている(きょうされん理事会2017)。
また「アンペイド・パブリック・ワーク」とは、市場経済の外で行われるアンペイド・ワーク(無償労働)であり、かつ公的な業務を遂行する仕事を指す。たとえば、民生委員は非常勤の地方公務員(無報酬)として、社会福祉関連法の事務の執行に「協力」しており、アンペイド・パブリック・ワークをおこなっているといえる。日本の場合、前近代的な相互扶助の営みや統治の技術を踏襲したものである。そして「地域包括ケアシステム」「『我が事・丸ごと』地域共生社会」などで期待されている地域の参加主体の多くは、アンペイド・パブリック・ワークを担っている者たちである。こうした参加のあり方は、これまで自立生活運動が求めてきたものと異なり、文化的な文脈も違っていると考えられる。
本研究は、「日本社会学会倫理綱領」および「日本社会学会倫理綱領にもとづく研究指針」を遵守するものである。
【参考文献】
厚生労働省老健局(2013)「地域包括ケアシステムについて」.
厚生労働省「我が事・丸ごと」地域共生社会実現本部(2016)「地域包括ケアの深化・地域共生社会の実現」.
厚生労働省「我が事・丸ごと」地域共生社会実現本部(2017)「『地域共生社会』の実現に向けて(当面の改革工程)」.
きょうされん理事会(2017)「『我が事・丸ごと』地域共生社会のねらいは何か――『地域包括ケアシステム強化法案』の問題点と障害福祉への影響」.
三島亜紀子(2017出版予定)『社会福祉学は「社会」をどう捉えてきたか――ソーシャルワークのグローバル定義における専門職像』勁草書房.
杉野昭博(1995)「『ボランティア』の比較文化論②ボランティアの文化史」『月刊福祉』 78(14), 68-73.