堀 智久 (ほり ともひさ)
名寄市立大学
#報告題目
<地域の学校>へ行く/を問う
: 障害児を普通学校へ・全国連絡会の運動とその前史
#報告キーワード
障害児を普通学校へ・全国連絡会 / 就学運動史 / 地域の学校
#報告要旨
1. 目的
本研究の目的は、1981年に結成された「障害児を普通学校へ・全国連絡会(以下、全国連絡会)」の運動の歴史を取り上げ、その前史となる1970年代における就学運動との関連において、いかにしてそれまでの運動の蓄積を継承してきたのか、あるいはいかなる新たな問題提起や実践を行ってきたのかを明らかにすることである。本研究では、1980年代以降、日本の就学運動の集約的な機能を果たしてきた全国連絡会の運動の歴史を中心に取り上げることから、養護学校義務化を挟んで日本の就学運動の性格がいかなる変容を遂げてきたのか、その一端を浮き彫りにするとともに、いじめや不登校の問題と比較して、就学運動に特徴的な<地域の学校>に対する批判の視点を詳らかにする。
2. 方法
全国連絡会は、1981年8月、「“障害児が普通に学校に行けるように”を共通の願いとして、会員相互のネットワークづくりと情報の共有を目的に結成され[る]」(障害児を普通学校へ・全国連絡会 [2001]2008: 165)。
本研究では、全国連絡会の歴史を考察するにあたって、この会が発行してきた文献資料を用いている。具体的には、1.全国連絡会会報『障害児を普通学校へ』のほか、2.ブックレット、3.全国連絡会編集の図書(障害児を普通学校へ・全国連絡会 1985, 2004, [2001]2008)等である。また、本研究では、文献調査と並行して、全国連絡会の活動に深く関わった経験のある会員にインタビュー調査を行っている。具体的には、古川清治氏および片桐健司氏にインタビュー調査を依頼し、実施している。
なお、本研究の遂行にあたっては、「日本社会学会倫理綱領」および「日本社会学会倫理綱領にもとづく研究指針」を遵守している。
3. 結果と考察
全国連絡会の運動は、それ以前の1970年代の就学運動の蓄積に負うところが大きい。まず、全国連絡会の結成は、1981年の国際障害者年に代表される国際的潮流の影響は無視できないものの、1970年代後半以降の養護学校義務化阻止を掲げる就学運動の結集や国会でも取り上げられるほどの騒ぎとなった金井康治就学闘争がなければ成し得なかったことである。とりわけ、全国連絡会の運動は、東京「54年度養護学校義務化」阻止共闘会議に代表される関東の就学運動の影響を強く受けており、また全国連絡会の結成とその後の運動は、それまで一部の地域でのみ活発に取り組まれていた運動を、全国レベルの運動にまで押し上げる重要な役割を果たしている。また、こうした1970年代の就学運動および1980年代の全国連絡会の運動の基底にあるのが別学体制を差別と捉える視点であり、それは就学時健康診断の受診の拒否をその戦術の中心とする実力就学闘争のスタンスにも表れている。そして、全国連絡会ではそこに独自の法律解釈を加えることから、そのスタンスをより徹底させている。
だが、こうした別学体制を差別と捉える視点において、近代公教育制度そのものは批判の対象にはなっていない。なぜなら、そこで問題にされたのは近代公教育制度そのものというよりは、教育の場や教育内容等を含む通常教育と障害児教育とのあいだのダブルスタンダードであり、この点で通常教育そのものは問われていないからである。
これに対して、全国連絡会の運動では、養護学校のみならず、<地域の学校>の差別性もまた問われている。その背景には、1980年代以降、行政が障害児を普通学級に就学させてから締め出すように排除の仕方を変えたことがあり、全国連絡会の運動では、いじめや不登校と共通する問題として<地域の学校>の差別性が捉えられている。その一方で、全国連絡会では、こうした<地域の学校>の差別性に自覚的でありながらも、<地域の学校>にこだわり、そこで「共に学ぶ」ための工夫や取り組みもなされており、とりわけ、この時期には普通学級での障害児の介助に関する議論や誰もが一緒に参加できる授業のあり方の模索が活発になされている。
この点で、いじめや不登校の問題と比較して、就学運動においては、<地域の学校>の差別性に自覚的でありながらも、<地域の学校>を生活空間として肯定的に捉え直し、そこで共に学校生活を送ることに強くこだわってきた点で特徴的であるといえる。当日の報告ではさらに踏み込んで、1980年代以降、日本の就学運動の性格がいかなる変容を遂げてきたのか、その一端を浮き彫りにしながら、就学運動に特徴的な<地域の学校>に対する批判の視点を論じたい。
4. 文献
障害児を普通学校へ・全国連絡会,1985,『なぜこの学校に行けないの』八月書房.
――――,2004,『障害児が学校へ入ってから』千書房.
――――,[2001]2008,『障害児が学校へ入るとき――特別支援教育に抗して 新版』千書房.