このページは、複数の社会学者たちが書いた社会調査の教科書である、前田・秋谷・朴・木下編『最強の社会調査入門 ── これから質的調査をはじめる人のために』(ナカニシヤ出版, 2016年07月)を紹介するためにつくられたものです。本の中に収録されている文章の一部を公開するとともに、各章の「元ネタ」となった論文などへのリンクも掲載しました。本とあわせて、ぜひご活用ください。
前田拓也・秋谷直矩・朴沙羅・木下衆編『最強の社会調査入門──これから質的調査をはじめる人のために』(ナカニシヤ出版)
初版 第1刷: 2016年07月29日 / 第2刷: 2016年11月11日
A5 / 246頁
¥2,484
ISBN: 978-4779510793
はじめに ── この本を手に取ってくれた方へ(木下衆・前田拓也・秋谷直矩・朴沙羅) | |||
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第I部: 聞いてみる | |||
1 | 朴 沙羅 |
「昔の(盛ってる)話を聞きに行く ── よく知っている人の体験談を調査するときは」 |
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2 | 矢吹 康夫 |
「仲間内の『あるある』を聞きにいく ── 個人的な体験から社会調査を始める方法」 |
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3 | デブナール・ミロシュ |
「私のインタビュー戦略 ── 現在の生活を理解するインタビュー調査」 |
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4 | 鶴田 幸恵 |
「キーパーソンを見つける ── どうやって雪だるまを転がすか」 |
第II部 : やってみる |
5 | 前田拓也 |
「『わたし』を書く ── 障害者の介助を『やってみる』」 |
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6 | 松田さおり |
「『ホステス』をやってみた ── コウモリ的フィールドワーカーのススメ」 |
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7 | 有本尚央 |
「〈失敗〉にまなぶ、〈失敗〉をまなぶ ── 調査前日、眠れない夜のために」 |
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8 | 打越正行 |
「暴走族のパシリになる ── 『分厚い記述』から『隙のある調査者による記述』へ」 |
第III部 : 行ってみる |
9 | 木下衆 |
「フィールドノートをとる ── 記録すること、省略すること」 |
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10 | 團康晃 |
「学校の中の調査者 ── 問い合わせから学校の中ですごすまで」 |
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11 | 東園子 |
「好きなもの研究の方法 ── あるいは問いの立て方、磨き方」 |
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12 | 平井秀幸 |
「刑務所で『ブルー』になる ── 『不自由』なフィールドワークは『不可能』ではない」 |
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13 | 秋谷直矩 |
「仕事場のやり取りを見る ── 『いつもこんなかんじでやっている』と『いつもと違う』」 |
第IV部 : 読んでみる |
14 | 牧野智和 |
「『ほとんど全部』を読む ── メディア資料を『ちゃんと』選び、分析する」 |
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15 | 小宮友根 |
「判決文を『読む』 ── 『素人でいる』ことから始める社会調査」 |
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16 | 酒井信一郎 |
「読む経験を『読む』 ── 社会学者の自明性を疑う調査の方法」 |
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おわりに ── 社会学をするってどういうこと?(朴沙羅・前田拓也・秋谷直矩・木下衆) |
「社会学の社会調査って、こんなに面白いんだ」「これだったらマネできそうだから、やってみよう」と、読者の皆さんに思ってもらう。つまり「面白くて、マネしたくなる」。それが、この本のテーマです。
そう、社会調査って面白いんです! この本を手に取ってくれた皆さんの多くは、何らかの必要に迫られているはずです。「大学の講義で課題が出たから」「卒業研究をしないといけなくて」「大学院入学を目指して研究計画をたてるため」などなど。そしてそんな中、「だけど、どこから手をつけたら良いんだろう」などと困っていることでしょう。そうやって必要に迫られて、困っているとき、私たちが「やらないといけないこと」は、「つまらないこと」になりがちです。
だけど、どうせ「やらないといけない」なら、「面白い!」と思えた方が良い。この本にはそんな思いをもった、16人の社会学者が集っています。私たち16人にとって社会調査は、仕事として「やらないといけないこと」です。しかし私たちにとって、そのやらないといけないことには、たくさんの「面白いこと」が詰まっています。だったら、その面白さを伝えたい。
ただし、何かの「面白さ」を知るためには、「上手くできるようになっていく」ことが肝心です。いつまでたってもやり方が上達しなければ、何事もつまらないままです。それはスポーツやゲームだけでなく、社会調査についても同じです。
だったら、日々、社会調査を面白いと思っている私たちのやり方を、いわば実例として提示し、それをマネしてもらうのが一番手っ取り早いのではないか。――私たちはそう考えて、この本を作りました。
ところで、皆さんは恐らく、実際に調査を始めると色んな悩みを抱えるはずです。例えば、「インタビューしようと思ったけど、相手に何を聞いて良いのかわからない」あるいは「参与観察しようと思ったけど、その場に圧倒されて何に注目したら良いかわからなかった」。調査実習なら、「グループのあいだで意見が別れて苦労する」。さらに、自分の個人的な経験をきっかけに調査を始めたのに、「私の経験をどう社会と結びつけて良いのかわからない」などなど。以上は、私たちが学部生の皆さんから実際に聞かされた悩みの、いくつかの例です。
実は、こうして皆さんが調査で抱える悩みは、今はプロとなった社会学者たちが抱えていた(あるいは、今も抱えている)悩みと、まったく同じなんです。例えば、「親戚に話を聞いたら盛り気味で困った」(1章:朴沙羅)、「介護家族の集まりで上手くノートが取れない」(9章:木下衆)、「研究グループ内で方向性に違いが生まれた」(12章:平井秀幸)そして「自分がイラッとした体験を言語化できない」(2章:矢吹康夫)などなど。今はプロになった私たちだって、こうして失敗を繰り返す中で、上手くできるようになってきたわけです。あるいは私たちは、社会調査を仕事として長く続けている分、読者の皆さんより失敗経験が豊富だと言えるかもしれません。
だからこの本では、私たちが調査でどんな失敗をしてきたか、そしてそれを乗り越えるためにどんな工夫をしたか、できるだけセットで書くようにしました。そうすれば、皆さんが調査で何かにつまずいたときに、その対処法を「マネしやすく」なるでしょう。あるいはそもそも調査でつまずかないため、私たちの失敗を「マネしない」ことも、できるからです。
とはいえ、私たちは「なんでも良いからとにかくやってみろ」と、やたらむやみに皆さんの背中を押すつもりはありません。調査先で、誰かに迷惑をかけては元も子もありません(4章:鶴田幸恵)。あるいは、特に女性はハラスメントなどの被害の危険にも晒されがちです(6章:松田さおり)。調査は自分の自由にならないことばかりなので、場合によれば勇気ある撤退をすべきときもあります(11章:平井秀幸)。
しかし、この本を読み進めていけば、皆さんは読む前に比べて、ずっと調査を上手くできるようになっているはずです。そして調査が上手くできるようになれば、今度は調査の面白さもつかめてきます。そうすれば、作業もどんどんはかどるでしょう。
この本には、こうして「調査が上手くできるようになること」と「調査が面白くなること」が相乗効果を上げるプロセスを、できるだけ書き込みました。例えば、「ホステスクラブ」のような「いかがわしい場所」での調査は、パッと見ただけで面白そうだと思われるでしょう(6章:松田さおり)。では、「会議で紙を配ること」の調査(13章:秋谷直矩)はどうでしょうか? とても、面白そうには聞こえません。しかしこんな日常的な場面でも、調査のコツさえつかめば、途端に面白い場面に見えてくるのです。
調査できれば、面白くなる。面白くなれば、調査もはかどる。──そんな経験ができるように、この本をぜひ、使いきって下さい。
この本は、読者の皆さんが社会調査の実例を読み進めるなかで、「この調査って面白い!これならマネしたい!」と思ってもらえるよう、いくつかの工夫をしました。以下、「目次の見方」と「本文の構成」の順で、説明します。
この本は、社会調査の方法を4つ──「はなしをきいてみる」「やってみる」「いってみる」「読んでみる」──に分類しています。「はなしをきいてみる」はインタビュー調査に、「やってみる」と「いってみる」は参与観察(フィールドワーク)に、「読んでみる」は文献資料の調査に、それぞれ相当します。
こういう分類にしたのは、「社会調査」を、「私たちが普段やっていること」とつなげて考えてもらいたいからです。インタビューというと何だか大仰ですが、それは要するに誰かに「はなしをきいてみる」ことなわけです。また、参与観察という言葉を使うとずいぶん色いろな調査がひとまとめになってしまいますが、「その場のメンバー」として同じ仕事を「やってみる」ことと、その場には「いってみる」けど、「自分はあくまで調査者です」と距離を置いて調査をすることでは、ずいぶん事情が違うはずです。
社会調査の専門的な分類を離れ、あえて「私たちが普段やっていること」に即して分類することで、皆さんがマネしやすい構成を目指しました。
この本は、全ての読者が、最初から最後まで順番に、全ての章を通して読むことを想定して作られてはいません。
もちろん、全ての章を読んでもらった方がうれしいですが、私たちはむしろこの本を、積極的に「拾い読み」することをおすすめします。例えば、「授業でインタビューの課題が出たけど、みんなどうやっているのだろう?」と不安に思った人は、「はなしをきいてみる」の部に収録されている4本の論文を、とりあえず読んでみて下さい。あるいは、「卒論で、たくさんの文献資料を読み進めるタイプの調査をやりたい!」と思っている人は、「読む」の部に収録されている3本の論文を読んでみて下さい。そんな風に、自分の課題にあわせて拾い読みしてみて下さい。
さらに私たちは、この本をこんな風に読んでもらいたいと思っています。例えば、何か調査を始めようと思ったけど、「どうやって問いを立てればよいのだろう?」「どういう見通しで調査を進めればよいのだろう?」と、調査開始前から悩んでいる。あるいは、調査を始めてみたは良いけど、「今、ここで何をしたら良いのだろう」と、不安になってしまった。――そんな風に、何か悩みを抱えたり不安になったりした人が、自分の悩みや不安に関連しそうな章をまずは拾い読みしていく。そんな読み方です。
そこで私たちは、目次にある工夫をしました。目次を見ると、その章と節の並びのあとに、「こんなとき、こんな人に読んでほしい」という項目があります。これは、この章がどんな悩みにこたえられるか、この章をどんな人に読んでほしいか、私たちなりに整理したものです。
いわば、全ての論文がタグ 付けされている(特徴ごとにラベルが張られている)わけです。このタグ を見れば、その章の特徴がわかるはずです。例えばあなたが「雑誌を研究対象にしたい」と考えているのであれば、「情報メディアを活用したかったら」タグ のついた14章(牧野智和)へ、「自分の趣味を研究対象にしたい」と考えているのであれば、「自分の好きなもの(趣味)を扱いたかったら」タグ のついた11章(東園子)へ、といった具合です。
そしてこのタグ は、各部・各章を超えて、複数の論文についている場合があります。例えばあなたが、「調査先で怒られないか心配だ」と不安になったとします。目次をみると、「調査先で叱られないか心配だったら」というタグ がついているのは、4章(鶴田幸恵)、7章(有本尚央)、8章(打越正行)となっています。こうして、いくつかの章を読み比べることも、ぜひやってみて下さい。
さて、こうして目次を参考に各章に移動すると、「これから紹介する調査をもとにして書かれた論文」というという項目が、タイトルの下にまずあります(このサイトでは、アイコンのあとのリンク)。これは名前の通り、それぞれの章で紹介する調査から、その後どんな論文が書かれたのか、その内容を紹介したものです。
この項目は、ひとまず読み飛ばしてもらっても、構いません。この項目を読まなくても、本文の内容は理解できます。
しかし、調査をするだけでなく、良いレポートや良い論文を書くことを目指す人は、この項目にも注意して下さい。どういう調査を行い、どのようなデータを集めるかは、どのような論文(レポート)を書くかと密接に関わります。また逆に、書きたい論文(レポート)のスタイルによって、必要なデータや調査の進め方も異なってきます。例えば、「調査対象の全体像を知りたい」と思って調査が始まった3章(デブナール・ミロシュ)、14章(牧野智和)と、「細かいことを気にしてみる」13章(秋谷直矩)、15章(小宮友根)、16章(酒井信一郎)では、調査の進め方だけでなく、論文の書き方のスタイルもずいぶんと異なるはずです。
そしてもし関心がわいたら、このサイトから、「これから紹介する調査をもとにして書かれた論文」をダウンロードして、読んでみて下さい。「こういう風に調査を進めたら、こういう風に分析したり、引用したりすればよいのか」と、たくさんの発見があるはずです。
これは、皆さんが調査を「マネしやすく」なるための、工夫です。調査の進め方とその成果がどうつながっているのかがイメージできると、調査のときにどこに気をつければ良いのか、よりわかりやすくなるでしょう。
あるいは、この本をこんな風に使ってもらっても構いません。「これから紹介する調査をもとにして書かれた論文」の中で、特に気になる論文があったら、サイトからその論文をダウンロードして、先に読んでみて下さい。その後で各章に戻ると、「あの論文は、こんな調査から出来上がっていたんだ!」と、まるでメイキング過程を覗いているような面白さを感じられるはずです。
そうやって、この本の使い方は無限大に広がっていきます。ある部をまとめて読んでも良いし、タグに沿って拾い読みしても良い。もちろん、最初から順に読んでも良い。特設サイトにアクセスしなくても良いし、「これから紹介する調査をもとにして書かれた論文」をダウンロードして先に読んでも良い。
この本はそうやって、皆さんを刺激し、いろいろな使い方をしてもらえるように作られました。各部の4つの分け方や、目次につけたタグは、それぞれの論文を関連づける一つのやり方で、絶対的なものではありません。皆さんはきっと、この本を読み進めていく内に、それぞれの章のあいだの思わぬ関連や、自分なりの整理の仕方を見つけてくれると、期待しています。
そして、そうやってこの本を読み進めていると、気になることが出てくるでしょう。例えば、「どうやって問いを立てれば良いのだろう?」という悩みに対し、15章(小宮友根)は「調査を始める前にきちんと自分の問題意識を磨こう」と答えてくれるかもしれません。しかし一方、7章(有本尚央)や11章(東園子)は、「調査が始まってから問いを洗練させていけば良いのだよ」と答えてくれるかもしれません。あるいは、「調査先で怒られないか心配だ」という悩みに対し、4章(鶴田幸恵)は「相手に失礼のないように、まずはきちんと図書館で勉強しなさい」と答えてくれるかもしれません。しかし7章(有本尚央)や8章(打越正行)は、「もちろん失礼があっては良くないけど、誰かに怒られることから見えるものもあるから、あまり心配しすぎないで」と答えてくれるかもしれません。
つまり、同じ悩みに対して、この本の中では一見矛盾するような解決策が示されていることがあるのです。
しかし、そのことを私たちは、積極的に捉えています。調査対象も違う、調査期間も違う、調査先での扱いも違う(例えば10章の團康晃は、学校に限られた期間、「調査者」として関わりましたが、8章の打越正行は、今でもずっと、暴走族の「パシリ」をしています)。そんな風にそれぞれの事情が異なる以上、同じ悩みに対して違う答えが導き出されるのは、当然のことです。解決策は一つではないのです。
ですから私たちは、読者の皆さんが抱えがちな悩みに対して、答えの出し方のバリエーションをできるだけ示したいと思いました。もし、皆さんから見て対立するようなことがこの本の中に書いてあれば、読み比べて、皆さんの事情にできるだけあったものを参考にして下さい。あるいは、「自分の場合どうしたら良いだろう?」と、身近な先生や先輩に相談するのも、この本の使い方です。
「こんなことを調べたいな」と頭の中で考える段階から、実際にデータを集め、レポートや論文を書くまで、この本をぜひ手許に置いて下さい。この本は、皆さんが調査の進め方に悩んだとき、「このやり方で頑張ろうよ」と背中を押してくれたり、「いやいやこのやり方だとマズいぞ」と踏みとどまらせてくれたりする、良きパートナーになってくれるはずです。
この本を通じて、皆さんの調査体験が楽しくなっていくこと、そして読書体験が広がっていくことを、私たちは願っています。
何か知りたいことがある。誰かに話を聞きに行く。なんて安直な。そうかも知れません。社会調査と聞いて、まずインタビューを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
しかし、いっけん簡単そうな「聞いてみる」方法を選ぶや、様々な問題が湧いてきます。誰に話を聞けばいいのか、どうやって話をしてくれる人と出会うことができるのか、どれくらいの時間や回数を重ねればいいのか、どういう質問をすればいいのか、話を聞いたあとにどうすればいいのか。 知らない人に出会うこと、知っている人の知らなかった経験を聞くことは、それだけでわくわくする体験です。それだけで何かが書けそうな気がしてしまいます。
しかし、知りたいことを教えてくれる人と出会うのは、そう簡単ではありません。聞いた話を「社会学的に」書くことも、そう簡単ではありません。話をする、聞くという単純なやりとりに至るまでとそのあとには、たくさんの疑問が控えています。
この章では、そういった疑問に答えてきた人たちの調査が書かれています。既にある人間関係の中で話を聞きに行った人もいれば、話を聞きに行くために知らない所に踏み込んで行った人もいます。ひとりひとりの調査が、聞いてみることの面白さと、聞いてみるための工夫を伝えています。
敷居は低く、奥は深い、「聞いてみる」調査の世界へようこそ。
# | 著者 | タイトル | タグ |
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1 | 朴 沙羅 |
「昔の(盛ってる)話を聞きに行く ── よく知っている人の体験談を調査するときは」 |
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2 | 矢吹 康夫 |
「仲間内の『あるある』を聞きにいく ── 個人的な体験から社会調査を始める方法」 |
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3 | デブナール・ミロシュ |
「私のインタビュー戦略 ── 現在の生活を理解するインタビュー調査」 |
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4 | 鶴田 幸恵 |
「キーパーソンを見つける ── どうやって雪だるまを転がすか」 「いかにして『性同一性障害としての生い立ち』を持つことになるのか ── 実際のカウンセリングの録音・録画における「自分史をやる」」 |
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なぜだかずっと気になっていることがある。気になっている人たちがいる。それらを調べるための方法の1つに、実際に「やってみる」というアイデアがある。関心をもったその対象となる人びとの暮らす社会で、かれらがやっていることを、自分も同じように「やってみる」。そうして、どんな手応えがあるか、自分も体験してみる。そんなことを通じて、できることなら自分もその社会の一部になってみる。すると、かれらと同じ視点で社会を眺めることができるようになってくる。少なくとも、そのように努めてみる。そんな方法がよさそうだ。
なんて安直なんだろう。そう思うかもしれない。
たしかに、「やってみること」それ自体はなにもすごいことではないし、えらいことでもない。問題は、「やってみた」はいいけれど、それをどうすれば「研究」にすることができるのか、「文字」にすることができるのか、というところにある。
第II部では、「現場で実際にやってみる」ことを通して得た自分の経験を「社会学」にしてゆくためにはどうすればよいのか、そのためのアイデアを、経験者の視点を通してお見せします。
# | 著者 | タイトル | タグ | |
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5 | 前田拓也 |
「『わたし』を書く ── 障害者の介助を『やってみる』」 |
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6 | 松田さおり | 「『ホステス』をやってみた ── コウモリ的フィールドワーカーのススメ」 |
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7 | 有本尚央 | 「〈失敗〉にまなぶ、〈失敗〉をまなぶ ── 調査前日、眠れない夜のために」 |
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8 | 打越正行 | 「暴走族のパシリになる ── 『分厚い記述』から『隙のある調査者による記述』へ」 |
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自分が興味をひかれた場所に「行ってみる」というのは、シンプルで、意外に上手くいく調査法です。これまでにも出入りしていた場所に、あらためて調査モードで行ってみたり、あるいは、自分の知り合いや先生に仲介してもらって、今までに行ったことのない場所に足を踏み入れてみたり。一人ではなく、グループでいってみるという手もあります。皆さんが真剣に取り組んでいるということが伝われば、意外に多くの場所が、皆さんの調査を受け入れてくれます。
しかし、皆さんは「行ってみた」先のメンバーではありません。つまり、そこにもともといた人(所属している人)たちからしたら、「赤の他人」なわけです。だからこそ、独特の気まずさを感じることもあるでしょう。「あの人は誰だろう?」という視線を向けられたり、その場で役割がないのでどう振る舞えば良いかが分からずに困ったり、なんていうことは、ありがちなことです。
だけど、臆することはありません。皆さんも相手のことを知りたがっている。そして皆さんを受け入れた先の人たちも、自分たちのことを知ってもらいたいと思っている。そのお互いの気持ちを、具体的な調査の中で噛み合わせることができれば、面白くて実りある調査になるはずです。これから、そのコツを紹介しましょう。
# | 著者 | タイトル | タグ |
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9 | 木下衆 |
「フィールドノートをとる ── 記録すること、省略すること」 |
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10 | 團康晃 |
「学校の中の調査者 ── 問い合わせから学校の中で過ごすまで」 |
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11 | 東園子 |
「好きなもの研究の方法 ── あるいは問いの立て方、磨き方」 |
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12 | 平井秀幸 |
「刑務所で『ブルー』になる ── 『不自由』なフィールドワークは『不可能』ではない」 |
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13 | 秋谷直矩 |
「仕事場のやり取りを見る ── 『いつもこんなかんじでやっている』と『いつもと違う』」 |
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暮らしのなかにはたくさんのテキストがあって、それを読んだり、ときには書いたりしてわたしたちは日々生活しています。書く場合は、伝えたいことを読み手に理解できるようにするにはどうすればよいか悩むでしょうし、読む場合は、そこになにが書かれているかをがんばって理解しようとするでしょう。
この過程のただなかにテキストがあるのだと考えれば、そのテキストはどのように理解できるのか、あるいは、どのように理解されているのかということを調べれば、わたしたちの暮らす社会について何らかの知識を得ることができそうです。
では、テキストを読む/書くということをどのように調べればよいでしょうか?ふと立ち止まって見回せば、わたしたちの社会はテキストであふれかえっていることにすぐに気づくと思います。となれば、なにを、どこで見ればよいのでしょうか?
本章では、こうした疑問にヒントをくれる、「テキストのフィールドワーク」を独自のやりかたで進めてきた人たちが登場します。
# | 著者 | タイトル | タグ |
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14 | 牧野智和 |
「『ほとんど全部』を読む ── メディア資料を『ちゃんと』選び、分析する」 |
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15 | 小宮友根 |
「判決文を『読む』 ── 『素人でいる』ことから始める社会調査」 |
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16 | 酒井信一郎 |
「読む経験を『読む』 ── 社会学者の自明性を疑う調査の方法」 |
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# | ページ / 行 | 誤 | 正 |
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1 | p03 / l02 | "89-204頁" | "89-104頁" |
4 | p46 / l02 | "奥田道広・有里典光訳『ストリート・コーナー・ソサイエティ』" | "奥田道大・有里典三訳『ストリート・コーナー・ソサエティ』" |
7 | p85 / l03 | "特に「アペンディクス」で示される著者のフィールドにおける苦労や葛藤は (...) 本書が刊行されてから四半世紀以上が経った現在でも大いに参考になる。" | "本書で示される著者のフィールドにおける苦労や葛藤は (...) 本書が刊行されてから半世紀以上が経った現在でも大いに参考になる。" |
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【書評】 | 京都大学生活協同組合書評誌『綴葉』2016年10月号 No.351「話題の本棚」 |
【書評】 | 筒井淳也氏 『図書新聞』2016年12月10日発行 |
【言及】 | 山本貴光氏 【ニコ生(2016/12/07 19:00開始)】【生放送】斎藤哲也×山本貴光×吉川浩満「『人文的、あまりに人文的』な、2016年人文書めった斬り!」にて |